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福岡地方裁判所 昭和49年(む)76号 決定

被疑者 高尾正光

主文

原裁判を取り消す。

理由

別紙のとおり

別紙

一 本件準抗告申立の趣旨並びに理由は、検察官提出の「準抗告及び裁判の執行停止申立書」記載のとおりであるからそれをここに引用する。

その要旨は、本件勾留請求は適法であり、本件が、いわゆる逮捕、勾留のむしかえしであるとして右勾留請求を却下した原裁判は違法であり、取り消されるべきものであるというにある。

二 よつて、判断するに、一件記録及び職権によつて取り調べた別件記録(福岡地方裁判所、昭和四八年(わ)第九五五号、覚せい剤取締法違反被告事件)によれば、

被疑者は、別件(昭和四八年八月上旬ころに覚せい剤を不法に所持していたという事実)により、昭和四八年一一月二二日逮捕され、同月二五日勾留ののち、その期間の延長がなされて同年一二月一四日に起訴され同月二四日には右事件につき保釈許可決定があつたが、保釈金未納のため身柄拘束のまま、昭和四九年一月一六日第一回公判が開かれて実質審理を終え、追起訴予定ということで続行され、その後、保釈金納入により同年一月二五日に釈放されたが、これより先の昭和四八年一二月二四日、福岡警察署は、本件(昭和四八年一一月二一日に覚せい剤を不法に所持していたという事実)につき、被疑者が別件についての保釈許可決定を得ることにより釈放されることを考えて、逮捕状の発付を受け、さらに、同月二八日、有効期間を一か月として逮捕状の更新を得、昭和四九年一月二五日、別件につき釈放されると同時に本件につき逮捕状を執行し、これに基づき同月二八日本件勾留請求がなされたものであり、原裁判は、本件につき直ちに逮捕状を執行し得たにもかかわらず、これを見合わせ、別件による勾留期間を利用して本件の取調べが続けられていたことは明らかであり、とくに別件についての第一回公判期日以後は、もつぱら本件の取調べのために勾留が続けられていたものであると認められるから、本件についてさらに勾留を認めることは、いわゆる逮捕、勾留のむし返しとなり違法であるとして、この請求を却下したものである、との事実が認められる。そして、本件記録によれば、別件の勾留期間中に、本件についても、被疑者の取調べをはじめ、その他の捜査が続けられていたことが認められ、とくに、追起訴予定であるとして、第一回公判期日を続行してからは、別件による勾留はもつぱら本件のための勾留であつたといい得るのではないかとも考えられる。しかしながら、別件による勾留期間中に本件についても取調べがなされたからといつてそれが直ちに本件についての勾留と認め得るものであるといい得るかどうかは慎重な判断を必要とするところであり、とくに、本件は、被疑者の別件による起訴後の勾留期間中に本件の取調べをしたというものであることからすれば、現在の捜査等の実情に鑑みるとき、右勾留期間をもつて直ちに実質的に本件のための勾留であるとすることには疑問がある。原裁判は、逮捕状の執行を見合わせたことにつき、まず、別件による勾留期間を利用し、さらに本件による勾留を繰り返そうとする意図があつたとするようであるが、右事実をもつて直ちにそのような意図があつたといい得るものでもない。そして、別件及び本件の罪質、本件の捜査の程度及び経過、別件による勾留の期間等の事情に鑑みるとき、本件についても別件による勾留期間内においてかなりの実質的な取調べがなされている等の事情は、本件の勾留期間の延長を認めるかどうかを決する際には十分考慮されるべきものであると考えられるが、本件勾留請求をいわゆる逮捕勾留のむしかえしとして却下すべきものとは認められない。

そうだとすると、他に本件勾留請求を違法としなければならない事由は認められず、かつ刑事訴訟法六〇条一項の事由の認められることの明らかな本件勾留請求はこれを認容すべく、これを違法として却下した原裁判は取消しを免れず、本件準抗告の申立は理由があるので、同法四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

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